プレスリリース

バイオイメージングなどの医療用途向け カーボン(炭素)量子ドット、グラフェン量子ドットの大量生産方法を確立

2019.07.15

ポイント

1. バイオ、医学用途にも応用できる安全で毒性のない炭素系の量子ドット(カーボン量子ドット、グラフェン量子ドット)の大量生産方法を確立

2. 他の量子ドット材料であるCd, Se, Pbなどの元素と比較して安全な元素である炭素を原料とする量子ドット材料

3. カーボン量子ドット、グラフェン量子ドットを大量生産できるようにしたのは世界初であり、将来的には他の量子ドットより安くできる

4. 特にグラフェン量子ドットはフォトン・アップコンバージョン発光(低いエネルギーの光を高いエネルギーの光に変換する技術)の性質を示します

概要

兵庫県川西市に本社を置く中小化学メーカーである冨士色素株式会社(創業昭和13年、従業員約85人)の研究部に所属する森 良平博士は、バイオイメージングなどの医療、医学用途に応用できる炭素系量子ドット(カーボン量子ドット、グラフェン量子ドット)の大量生産方法を確立しました。炭素系の量子ドットを含め、量子ドットにおいては数多くの作製方法が報告されていますが、いずれも電子リソグラフィーと言った高価な方法や、強い酸を使ったり精製に手間や時間がかかったりするため、より迅速、簡便な方法が求められていました。この点において、特に炭素系の量子ドットの大量生産方法を確立し、商業ベースのビジネスに展開できるようにしたことは世界初です。

背景

量子ドット(Quantum Dot) とは、量子化学、量子力学に従う独特な光学特性を持つナノスケールの半導体結晶のことを指す最先端材料です。原子、分子数が10 – 1000個と言われる超微細構造を有しており、通常1 – 10nmの直径というものすごく小さい構造体で、人口原子とも言われています。コロイドナノ結晶のサイズによってバンドギャップを調節することが可能であるため、粒径に依存した特徴的な発光特性を持ちます。量子ドットは、単に発光波長が調整可能でスペクトルの半値幅が狭いというだけでなく、高い量子効率を持ち、また一方で幅広い波長を吸収することができます。基本的に、量子ドットは溶液(水、各種有機溶媒)に分散している状態ですので、低コストのプリント技術やコーティング技術を用いることが可能です。量子ドットの発色が明るく 鮮やかであることに加えて、広範囲の波長の光を発光可能で、かつ高効率、長寿命、高い減衰係数であるために、下に示すように様々な用途で応用が期待されています。

1. 太陽電池
2. ディスプレイ
3. セキュリティタグ、セキュリティインク、偽造防止
4. 量子ドットレーザー
5. トランジスタ
6. フォトニック結晶
7. 生体イメージング、バイオマーカー、医療画像装置(がん細胞のイメージング、たんぱく質の分析、細胞の追跡など)
8. LEDを含めた照明
9. 高密度固体メモリー
10. 熱電材料
11. 量子コンピューター

商業ベースとして量子ドットを研究開発、製造している企業は世界でもまだ数が少なく、それらの製品を含め一般的な量子ドットはカドミウムを用いた半導体ですが、多くの用途でこれら重金属の使用は規制されています。そのためカドミウムの含まれていない量子ドットの開発が進められています。冨士色素株式会社はこのカドミウム含有量子ドットを含め、 カドミウムを含まない量子ドットとしてZnS、InP/ZnS、CdS、CdSe、CuInS2、CuInSe2、CuInS2/ZnS、PbSなどの商品をそろえています。しかしながら、これらの元素を用いた量子ドットにおいても、バイオイメージングのような医療用途で用いることができるようにするにはより安全な材料が必要となります。また原料コスト、製造プロセスが複雑であることも問題です。近年その代替材料としてより安全で安価な材料であるカーボン(炭素)量子ドット、グラフェン量子ドットが特異な蛍光挙動を示すことから次世代の蛍光体として着目を集めていました。これらの量子ドットは、生体の相溶性が高く、水系で、何より安全な材料なので、バイオイメージ画像化、タンパク質分析、細胞のトラッキングなど様々な生物医学的な応用化が期待できます。冨士色素株式会社はこれらのカーボン量子ドット、グラフェン量子ドットの大量合成技術を確立し、商業ベースでのビジネスを可能としました。炭素系量子ドットにおいて、大量生産商業ベースでの技術を確立したのは世界初です。現在、カーボン量子ドットの量子収率は約45%、グラフェン量子ドットのそれは約80%でさらなる向上を目指しています。また特にグラフェン量子ドットは赤外線で励起され、可視光の光を蛍光として放出するフォトン・アップコンバージョン発光の性質を有しており(低いエネルギーの光を高いエネルギーの光に変換する技術)、生体内部の発光イメージングや生体埋込型光バイオセンサー、太陽電池、人口光合成など様々な応用が期待できます。ただ、半値幅はディスプレイ用途に必要とされるほど狭くはないので、半値幅の狭さをそれほど要求されずに、かつ安全性を有効にいかせるバイオイメージングなどの医学用途に主に展開をしていく予定です。

ブラックライト下でのグラフェン量子ドットの発光

グラフェン量子ドットの励起波長に依存した発光スペクトル

◆  量子ドット

量子ドットは直径1-10 nm(原子、分子数 10 – 1000)のサイズの超微細構造を有する微粒子で、そのサイズに基づいた特異的な性質を示し、物質の分子状態としての挙動とバルクとしての挙動の中間の状態の挙動を示すという点で非常に興味深い材料です。エネルギー準位、バンドギャップ、伝導帯、 価電子帯といった概念は、通常のバルクサイズの半導体の概念がそのままあてはまりますが、一つ大きな違いがあります。バルク状態では、半導体結晶の粒径は、ボーア半径よりも大幅に大きくなり、励起子は自然限界にまで及びます。しかし、 半導体結晶が小さくなると、物質のボーア半径のサイズにまで近づき、電子エネルギー準位はもはや連続ではなくなり、離れ離れになって行き、つまりエネルギー準位同士の間に小さな分離が生じます。この分離したエネルギー準位の状態は、量子封じ込めと呼ばれ、この状態では、半導体物質はバルクではなくなり 量子ドット と呼ばれる状態になります。

◆  生体イメージング

超微粒子である量子ドットは体内のあらゆる場所に送達可能であり、医学、医療用画像やバイオセンサー、バイオイメージングなど様々な生物医学用途に適しています。また生体適合性ポリマーで量子ドットをコーティングすることで、血中に分散させることが可能です。また、抗体、抗がん剤などの特定の分子と結合させ、標的細胞に用いることも可能です。現状では、蛍光を用いたバイオセンサーにはスペクトル幅の広い有機色素が用いられていますが、有効色が少ない点や標識寿命が短いなどの制約があります。これに対し、量子ドットはあらゆる波長領域の光を発光することが可能である点や、高輝度、長い蛍光寿命など、従来の有機色素よりも優れた特徴を持っています。

今後の予定

カーボン量子ドット、グラフェン量子ドットの溶媒は主に水です。引き続き量子収率の向上に努め、また今後はAg系、Te系、Ni、Mo系、シリコン量子ドット、その他の量子ドット、量子ロッドの研究開発、製造の検討を進めていく予定です。